10Nov
フランツ・カフカの小説『変身』を読んだのは中学生のころ。
けっこうな衝撃を受けたのを覚えています。
ある 朝、 グレゴール・ザムザ が 気がかり な 夢 から 目ざめ た とき、 自分 が ベッド の 上 で 一匹 の 巨大 な 毒虫 に 変っ て しまっ て いる のに 気づい た。【フランツ カフカ. 変身】
主人公グレゴールは旅まわりのセールスマン。ストーリーの大方は忘れてしまったけど、結局さいごは父親の投げたリンゴに当たり傷が悪化して死んでしまったと記憶します。
とにかく、読まなきゃよかった、と後悔するほどの読後感でした。
フランツカフカはこの主人公と同じ、保険会社のセールスマンで出張ばかりしていたといいます。「出張が忙しくて満足いく終わりが書けなかった」とこの小説を書いたころを回想していました。というのもなんだかすごいですね。世界的な大ベストセラー(ただしカフカ没後)だったにもかかわらずにです。
以来、ぼくもなんどとなく「朝、巨大な虫になっていたらどうしよう?」と意味もなく悩んだし、初めてカフカ由来のプラハを訪れ、一泊して朝を迎えたときは高熱でうなされてしまい、ほんとうに虫みたいに身動きがとれませんでした。駅のベンチで寝袋に入って夜を明かしたということもありますが。
そんなフランツ・カフカの残した言葉でぼくがいちばん気にいっているのが、
「悪は善のことを知っている。しかし善は悪のことを知らない。」
というものです。だからどうやったって悪はルールを破るものだし、善は悪を知らないから破られるようなルールしか作れないのだと腑に落ちます。フランツカフカという人間は、とにかく物静かで礼儀正しい人物だったようで、それなりにユーモアもある好青年であったと記録にあります。また、用心深いことでも有名で、保険会社勤務中、工場への視察などがあると軍用ヘルメットを被っていました。今ではあたりまえに装備された安全ヘルメットの発明は、実はカフカだったのでした。
カフカが生まれた時のプラハは、オーストリア=ハンガリー帝国の一部でしたが、その後チェコスロバキア共和国の首都。また、カフカはユダヤ人ですが、当時のユダヤ人はドイツ人として扱われ、チェコ人がほとんどのプラハにおいては少数民族扱い。自分でも「わたしは半ドイツ人だから」と自虐的に称していたそうです。
さらに興味深いのが『変身』を書き上げたとたん、自国の皇太子がサラエヴォで暗殺され、なんとそれをきっかけにまさかの第一次大戦が勃発してしまいました。出版は開戦したよく年、図らずも戦中作品となってしまったのでした。大戦による戦死者は実に1000万人を超え、ある意味巨大な毒虫になっていたほうがましな時代でもありました。
激動の時代に、激動の中心地で暮らすはめになったカフカゆえのこの言葉に、いくつもの解釈を盛ってみたい気もしてくるのでした。
きょうもよい1日を!
いつもと違う時間にアップしてしまいました。本文は明け方に書いたのですが、通信障害があって更新が今の時間になってしまいました。通信過負荷? あるいは可不可か?